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酔生夢死の世の中を渡るには、それなりの覚悟と知恵がいる。そんな覚悟も知恵もなく歩んできた人生の好きなことを、好きなように書き散らしました。

「~」のない人生 [現代詩]



僕の人生には何があったのかとつくづく考えた

子供のころはお菓子と母ちゃん そして近所の遊び友達
中学生になると可愛い女子生徒の面影と部活の友達
そしてアイドルやお気に入りの歌手
高校生になってもそれは変わらなかった
大学生になると本とアルバイトがあった

やがて社会人になると
仕事を覚えるのが精一杯で
あれもこれも欲しいものばかりだった
他人よりも高い給与 組織の中でのより高い地位
多くの人からの称賛 
部屋がいくつもある豪邸
美しくだけでなく聡明な恋人
心地よく酔わせてくれる酒
両親が喜んでくれるような社会的成功
全てはなかなか手に入らないままに時間は流れた

そして 気が付くと僕は
あまり美しくも聡明でもない妻と
たいして賢くなく平凡な子供たちに囲まれて
父親と呼ばれる存在になった
僕が手にしたものは 生活に困らない程度の給与
世間並みの地位 普通に誰でもが得られる称賛
家族四人がやっと住める小さなマンション
そんな平々凡々とした暮らしだった

お菓子はほとんど食べなくなった
母ちゃんは疾うに亡くなった
近所の遊び友達はみんな散り散りになって行方が知れない
かつての憧れの女子生徒も 
今ではすっかり年を取ってお婆さんになったことだろう
部活の友達もどうなったのか所在は知らない
アイドルもお気に入りの歌手ももう記憶の中に埋もれた
アルバイトの楽しい思い出も悔しい思いでもどこかに消えた
仕事の上の出来事は覚えてはいるが懐かしいものではない
輝かしかった頃の記憶さえも 雪に埋もれた地下茎のようだ

でも 手に入らなかったものも手に入れたものも
夢や希望 怒りや絶望 懊悩と逡巡 
喜びと哀しみ 満足と不満
そんな感情や心の動きさえもが
僕という人間には 全て 必要だったのだ

そして今
僕と共にしわの数を増やしてきた老妻が
僕の隣で静かに座っている
しわの数は増え続け
足腰は弱りつつあるが
まだまだ 歩いて行ける妻よ
ありがとう
これから先も ずっとずっと
ありがとう ありがとう
僕たちの子どもたちよ 
ありがとう
手に入ったものにもありがとう
手に入らなかった数々の
夢や憧れにもありがとう

やがて僕が静かにこの世を去るときには
一際大きな声で ありがとうと言おう


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